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海のクリーンエネルギー 海のテクノロジーが進める持続的可能性

2023.10.23

資源の乏しい日本にとって、多くの可能性を秘めた海は貴重な存在です。再生可能エネルギー、希少な鉱物、そして次世代クリーンエネルギーの代表である水素エネルギーなど。海は私たちに多くの恵みをもたらしてくれます。しかし、一方では海洋ゴミや水産物の乱獲など、海の利用に当たっては様々な問題も。そこで今回は海にまつわるテクノロジーと、海の持続可能な利用を目指す研究を解説します。

風力や波力 海がもたらす持続可能なクリーンエネルギー

日本はほとんどの化石燃料を海外からの輸入に頼っています。しかし、周囲を海に囲まれた島国だからこそ得られるものが海の恵みです。現在、海に存在する資源、いわゆる「海洋エネルギー」が注目されています。

海洋エネルギーを利用する方法のひとつとして、発電が挙げられます。海が持つ力を使った発電には、洋上の風車で発電する洋上風力発電や、海の表層と深層の温度差を利用して発電する海洋温度差発電があります。また、発電用の装置を海底に設置したり海上に浮かべたりして波の運動をエネルギーに変換する波力発電、潮の流れを利用する潮流発電や、干満の潮位の差を利用する潮汐力発電、塩分濃度の差を利用する海洋濃度差発電など、様々な発電システムが開発されています。

こうしたシステムの多くは、二酸化炭素を発生させない再生可能エネルギーをつくりだし、環境に優しいという大きなメリットがあります。また、海中で行う発電は陸地と比べて天気に左右されることが少なく、さらには発電量も予測しやすいため、安定した電力供給が見込めます。実際、欧州では洋上風力発電が再生可能エネルギーの中で主力となりつつあります。

ただ、海に大きな施設を建設するとなれば当然莫大なコストがかかりますし、塩害による機材の劣化や漁業への影響など課題も多く、日本では商用化に至っていないのが現状です。とはいえ、日本の海域の広さは世界6位。今後、海洋エネルギーを使った発電が実用化されれば、そのポテンシャルは陸地以上になることが期待されています。

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海上の充電ステーションで脱炭素へ?!海の再エネ最前線

海 クリーンエネルギー

2022年、世界初の電力で動くEVタンカーが日本で造船され、川崎港には専用の充電ステーションも建設されました。EVタンカーには電気自動車100台分のリチウムイオン電池が搭載され、供給される電気はすべて再生可能エネルギーです。現在のところ航行できる時間は10〜12時間程度ですが、将来は海上に充電ステーションが建設され、世界を行き交う船のEV化に貢献するかもしれませんね。

海からの恵みは電気だけではありません。海には様々な鉱物資源も眠っています。経済産業省の資源エネルギー庁によると、日本の海域には4つの海洋鉱物資源があり、中でも沖縄や伊豆・小笠原諸島の「海底熱水鉱床」が注目を集めています。また、海水自体にも金やウラン、マグネシウムなどの金属が微量ながら溶け込んでおり、これらを効率的に取り出す研究も進められています。こうした研究は今後、鉱物資源の供給に大きな役割を果たすかもしれません。

また、究極のクリーンエネルギーともいわれる、水素エネルギーを海水から取り出す研究も行われています。これは海水を高性能のフィルターにかけて純水にし、電気分解して水素を作るというものですが、ある日本の企業はこれを船上で行おうとしています。巨大な船に高さ53mもの帆を10基取り付けて海水と風力で水素を作り、推進力として利用するだけでなく陸上にも供給します。この「動く水素生産プラント」は2025年に建造される予定です。

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海洋ゴミや乱獲問題も解決へ導く DXが進める海の持続的可能性

海 クリーンエネルギー

持続可能な方法で海を利用するには、海洋ゴミの問題や水産物の乱獲といった課題を解決することも必要です。そのため、近年では様々な最新テクノロジーが導入されています。例えば、いくつかの海岸ではビーチの清掃にロボットが投入されています。清掃活動で集めたゴミの運搬は人間にとっては重労働ですが、ロボットなら問題ありません。各地で行われた実証実験では、ゴミ入れを取り付けたロボットが海岸を隅々まで走り回り、多くの人も一緒に楽しみながらゴミ清掃を行いました。また、水面に浮かぶプラスチックごみや油を回収するロボットも活躍しています。

ゴミの分布状況をドローンやAIで分析するプロジェクトも進められています。あるシステムを使えば、人の目には見えない海中のマイクロプラスチックを検出することが可能。こうした技術を活用することで、目の前にあるゴミを集めるだけでなく、どこにどんなゴミが分布しているかを把握・分析し、ゴミ問題を根本的に解決するための一歩に繋げることができます。

ITを取り入れたスマート漁業も海の問題解決に有効です。スマートブイなどのIoTデバイスから得られた海洋ビッグデータやAIを活用すれば、漁業領域を絞り込んだり漁獲量を予測したりすることができます。データを分析してマニュアル化することにより、経験や勘で行われていた漁や養殖業は、今よりも効率化することが可能となるでしょう。こうした試みは、燃料を削減し人手不足の解消に繋がるだけでなく、乱獲の防止にも役立つことが期待されています。進む海のDX(デジタルトランスフォーメーション)が海を守り、海の持続可能な利用を実現させているのです。

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海洋テクノロジーが脱炭素の切り札に――海洋エネルギーの持続可能な活用

私たちが想像している以上に、海は大きなポテンシャルを秘めています。いわゆる「再エネ海域利用法」が2019年より施行され、政府も海洋エネルギーの活用に向けた後押しを始めました。海洋エネルギーの持続可能な利用は、脱炭素に向けて舵を切った社会にとって、大きな切り札になるかもしれません。今後の開発には大いに期待したいものです。


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【執筆】ユピスタ編集部
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