2024年7月に発行された新紙幣。その目玉のひとつが3Dホログラムです。ただし、ホログラムといっても立体的な映像が浮かび上がるものではなく、極めて薄いフィルムのようなホログラムを刷り込むことにより、見る角度によって図柄を変化させる印刷技術を使ったもので、肖像が回転するように見える世界初の偽造防止技術が使われています。今回はこの画期的な新紙幣のホログラムを取り上げるとともに、映像のホログラムと印刷のホログラムがどのように違うのか解説します。
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2024年7月に発行された新紙幣。その目玉のひとつが3Dホログラムです。ただし、ホログラムといっても立体的な映像が浮かび上がるものではなく、極めて薄いフィルムのようなホログラムを刷り込むことにより、見る角度によって図柄を変化させる印刷技術を使ったもので、肖像が回転するように見える世界初の偽造防止技術が使われています。今回はこの画期的な新紙幣のホログラムを取り上げるとともに、映像のホログラムと印刷のホログラムがどのように違うのか解説します。
約20年ごとに刷新されてきた日本の紙幣には、それぞれの時代における最高レベルの偽造防止技術が導入されてきました。
今回の新紙幣にも凹版印刷、繊細なすかし、光る特殊インクなどの技術が使用されていますが、中でも注目されているのが3Dホログラムです。それぞれの紙幣に印刷されているキラキラ光る肖像が紙幣を傾けると回転し、まるで顔の向きが変わっているように見えます。この技術が紙幣に取り入れられたのは世界初なのだとか。
このような紙幣やクレジットカードに印刷された「キラキラ」は「ホログラム」と呼ばれます。「ホログラム」というのはギリシャ語で「すべて」を意味する「holo」に由来します。技術的に言うと、この場合の「すべて」は光の「強さ(振幅)」と「色(波長)」と「方向(位相)」を指します。
2次元の写真が記録するのは光の「強さ」と「色」の2つだけですが、ホログラムはそれに「方向」を加えた3つの情報を、レーザー光によって記録・再生します。これがそこにないモノを存在するかのごとく、立体的に見ることを可能にしているのです。
ただ、基本のホログラムはレーザー光を当てて再生しますが、日常的に使用する紙幣でレーザー光は使えません。そこで、キラキラ光る特殊印刷で光を分ける(分光する)ことにより、太陽光などの自然光で再生できるように工夫されています。これが虹色に光るレインボーホログラムです。
ホログラムという言葉を聞くと、SF映画で空中に浮かび上がる立体映像を連想する人もいるでしょう。本来、ホログラムは光の3次元的な記録技術を指しますが、この技術を使えばそうした立体映像を作ることも理論的には可能です。
しかし、そのためには高度な技術と大掛かりな装置に加え、写真や動画をはるかに超える大量のデータ、そしてそれを送信する高速で大容量の通信技術が必要です。ただ、残念ながら今のところこうした条件を揃えるのは難しく、クリアで違和感のないリアルな3Dホログラムはまだできていません。6G(第6世代の高速移動通信システム)が使えるようになればと言う科学者もいれば、2030年頃に実用化されることを予測している人もいます。
本物の3Dホログラム映像が見られるのはもう少し先になりそうですが、現在でも様々な技術を駆使した疑似ホログラムなるものが作られており、すでに各分野で活用されています。
例えば、透明スクリーンやミストに映像を映し出すプロジェクション方式、ガラスに映りこんだ光を利用するペッパーズゴーストなどが、疑似ホログラムとして挙げられます。最近では専用のゴーグルとARやVR技術によって、何もないところにリアルな3D映像を再現できるようになりました。立体映像の需要は高く、エンターテインメントの世界はもちろん、ビジネスシーンでの利用も進んでいます。
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ホログラムには今後も様々な場面での活用が想定されています。印刷技術としてホログラムを使う時の代表的な例は、新紙幣に見られるような偽造防止対策や真贋判定です。この技術をすでに導入した事例として挙げられるのが、角度を変えたりスマホのLEDライトを当てたりすると、文字や絵が浮かび上がる特殊なホログラムのシールです。
ホログラムの作成には高度な技術や装置が必要となるため、まったく同じホログラムを作ることは不可能とされています。しかし、特別な知識がない人でも静止ホログラムが使われていれば、購入する時に本物か模倣品かを簡単に判断できるのです。
また、新紙幣にも導入されましたが、ホログラムに「動き」が加わることで、アニメーションやデジタルサイネージへの活用も検討されています。印刷された1枚の静止画にアニメーションを組み込めれば、絵本や図鑑、ポスターなどがもっとインパクトのある楽しいものになりそうですね。
もちろん、立体映像のホログラムが登場することも期待されています。これが実現すれば相手の立体映像を表示させることにより、まるで隣にいる相手と話しているような通話が可能になるかもしれません。空中に浮かんだ3Dホログラムを使って、触れることなくデバイスを操作する技術も開発中です。近い将来、ホログラムで空中に浮かび上がったディスプレイを自分の指で「触って」、様々な機器を扱うことも夢ではなくなるかもしれません。
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印刷によるホログラムは、紙幣やクレジットカードのほか、会員証やIDカードなどにも使用されています。大切な情報を守り、偽造防止および真贋判定を可能にする役割を果たしています。では、なぜホログラムが防犯に役立つのでしょうか? 主な理由は、ホログラムが容易に模造できないためです。新紙幣などに使用されるホログラムを製造するには、高度な光学設計技術が必要となります。さらに、ホログラムを加工してシールなどに印刷する場合は、特殊な設備と素材が求められます。
セキュリティ用途で採用されるホログラムの代表的な製造手法には、大量生産が可能なエンボスホログラム、ラベルの再利用や張り替えを防止するための熱転写ホログラム、コンピュータによる高精細で複雑なパターンを用いるデジタル生成ホログラムなどがあります。それぞれの手法では高度な製造技術が必要とされ、容易に作成することはできません。
また、熱転写ホログラムは、シールを剥がすと使用できなくなるタンパーエビデント技術を採用しており、不正行為を防止する効果があります。 偽造防止のための真贋判定方法には、視覚的に判断する方法、簡易な機器や道具を利用する方法、さらには専用の分析装置を用いる方法があります。これらの手法を組み合わせ、最新技術を取り入れることで、セキュリティの強度を高めることが可能です。
たとえば、特殊なインキを用いて2種類のチェッカーで異なる色彩が確認できるオプトチェンジホログラム、角度によって文字が現れたり隠れたりする隠し文字、顕微鏡でしか確認できないナノテキストなどの先進技術が応用されています。
また、真贋判定の一環として、印刷されたシールを専用機器に貼付することで本物であることが確認でき、ブランド保護にも寄与しています。美しいデザインだけでなく、ホログラムは防犯対策としても重要な役割を担っています。
ホログラム技術は、防犯分野に留まらず、エンターテインメント、教育、医療、広告など、多方面で応用が進んでいます。この分野で用いられるのは、映像ホログラムです。
エンターテインメント分野で特に注目すべきは、ライブコンサートの演出です。最先端技術を積極的に活用する、あるダンスユニットのステージでは、ホログラム映像と実際のパフォーマーが共演するステージが話題になりました。また、バーチャルアーティストのライブでも、バンド演奏とともに歌う姿が観客を楽しませています。
これらのホログラム風の演出には、主として「ペッパーズゴースト」という技術が使われています。これは19世紀から存在する古典的な光学トリックで、コンサート以外にも、遊園地のおばけ屋敷などで広く利用されています。
教育分野では、博物館に行かなくても、VRを用いたホログラムで学習できる事例が見受けられます。たとえば、ロンドンの博物館では、人気動物学者がホログラムで登場し、恐竜などを解説する取り組みが行われています。また、医学教育においても、VRデバイスを用いて人間の臓器や骨格をホログラムで表示し、解剖の授業が実施されています。
さらに、ビルの屋上に設置されたL字型ディスプレイから、ネコが浮かび上がって見える広告も登場し、3Dデジタルサイネージの活用が進んでいます。街のあらゆる場所でホログラフィックな立体映像を体験できる機会が増えているのです。
AR/VRデバイス、展示会、インタラクティブなアート作品としての利用に加え、立体的な映像表現は複雑な情報伝達にも応用されています。これら多様な活用事例は、従来の平面的表現を超える新たな価値創造の可能性を示しており、今後の展開に大いに期待が寄せられています。
未来展望として、ホログラム技術と量子技術の融合は、従来を凌駕する情報処理、通信、画像再現の新たな可能性を秘めています。
量子コンピュータをはじめ、量子力学に基づく技術への関心が高まっています。量子技術が飛躍的に発展すれば、これまで以上に膨大な情報のやり取りが可能になるでしょう。インターネットを用いたビデオ通話が、ホログラム通信として実現すれば、まるでその場にいるかのように立体的な相手と話せるようになるかもしれません。さらに、肉眼で見たままの人間を再現し、量子センサで生体情報を確認することで、遠隔医療の分野にも大きな変革がもたらされる可能性があります。
しかし、このような技術の進展に伴い、セキュリティリスクも高まります。そこで、量子もつれの現象を利用してホログラフィック画像を選択的に消去する「量子ホログラム通信」も研究されています。この技術により、個人データから金融情報まで、あらゆる情報のセキュリティ強化が期待されています。
また、量子暗号や量子計算との組み合わせにより、高度なセキュリティ対策やデータ伝送が実現し、空中ディスプレイやリアルタイム立体通話などの次世代デバイスでの応用が期待されます。ただし、実用化にはさらなる研究開発が必要です。
今回ご紹介したように、私たちが普段目にしているクレジットカードや紙幣の小さな「キラキラ」には高度な技術が詰まっています。皆さんも、新紙幣のホログラムをぜひさまざまな角度から眺め、その技術の粋を感じてみてください。SF映画に登場するような、空中に浮かぶホログラムが実現するまでにはもう少し時間がかかりそうですが、技術の進歩を温かく見守りたいものです。
(2024年5月13日新規掲載:2025年5月19日更新)
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